第14章 デスビスノスとの戦い

□1996年 1月6日 4時00分 エコール社内

エコールのコンピュータルームから光が漏れる。デストレインの収益で購入したコンピュータが激しく計算を繰り返す。その前で、真剣な目でモニターを見つめるサワダ。
時間は明け方の4時、プログラマーにとって、最も疲労が蓄積し、また最も頭の冴え渡る、特別な時間が明け方の4時。そしてこの瞬間にこれまで越えられなかったアイディアが突然閃く、神の領域の時間、それがまさに今。

「サワダ課長、相当気合が入っているな、しばらく落ち着くまで様子を見よう」
そう言いながら、そっとベランダにでて弁天町の夜景を眺める。
「デスクリムゾンの制作中はこのベランダから何度、朝日を見ただろうか―――そして、開発が行き詰った時、何度この場所から飛び降りようと考えただろうか―――」
ベランダから中を見ると、サワダ課長に動きがある。

「どうやら、解析は終わったみたいだな、サワダ課長」
「ちょっと前に解析自体は終わっていました。せがた三四郎に組み込まれたデスビスノスの攻撃的なプログラムの解析は比較的早めに終わっていたんですが、その過程で気になるデータを見つけまして、それの確証を取るために技術的なブレイクスルーが必要でした」
「間に合ってよかったな。君はまだ入院中の身だし、病院をこっそり抜け出しているわけだから、朝の検温の時間までには帰らないと、病院を追い出されてしまう」
「なんとか間に合いました。でも、これから話する内容を考えると病院に戻って寝ていていいのやら」
「まだ、傷の状況は要注意の段階だ。あとは俺が何とかするからゆっくり休んでくれ」
「解りました、では解析結果を簡単に説明します」

「デスビスノスは900年前に風雅に封印されてから友ヶ島の赤の扉のある洞窟にずっと存在しましたが、今から約1年前、越前によってクリムゾンが持ち出された時封印が解け、移動を始めました。かつてデスビスノスはメラニートからの情報で、生きた動物の体を借りて移動していましたが、越前の体に憑依して移動を行った模様です。しかし、人間の体を借りるのはデスビスノスにとってもマイナスが多いらしく、他の場所にすぐに移動しました。と言っても、メラニートにも察知されずに、外部に対しても強力な抵抗力を持つ憑依先、その選択肢は多くはありません」
「それで、デスビスノスは今、どこにいるんだ」

「デスビスノスは、クリムゾンの内部にいます。せいじろうが赤の宮殿に隠し持った巨大クリムゾン、あれこそが、デスビスノスの憑依先なのです」

「そうか、あまりに近くにありすぎて考えもしなかった。確かに、あれだけ巨大なクリムゾンを赤の扉の洞窟に運ぶのは不可能だし、クリムゾン自体がカルマを最大限まで溜め込んでいるわけだから、破壊すると世界中に不幸のタネが巻かれることになる。我々がクリムゾンに手出しを出来ない以上、完璧な隠れ場所であることは確かだな」
「困りましたね、全く打つ手がありません。クリムゾンを破壊しようとしたり移動させようとするとクリムゾンは溜めたカルマを放出するでしょう。その内部にいるのですから破壊する方法もありません。デスビスノスを倒せるのはクリムゾンだけだったな、だがデスビスノスはクリムゾンの内部にいるのだから、倒す方法は無い。最も面倒なことになってしまったな」

「うーむ、どうしましょう。社長、豆乳ドリンクでも飲んで考えますか」
「そうだな、せっかくだから飲んでみるか」
「では、僕もせっかくだから飲んでみることにします。一本下さい」

グビグビグビ―――
マナベとサワダが豆乳を飲み干す。

「高速思考開始、エネルギー充填120%―――」
「だが、今回は全くアイディアが浮かばん、豆乳ドリンクを使いすぎたかな。サワダ課長はどうだ、もしかして、いいアイディアが浮かんだか」
「さっぱりだめです、何も浮かびません。それどころか急に眠くなってきました」
「だめだ、サワダ課長、寝るなー、世界の未来がかかっているんだ、ここで寝てどうする」
「では、追加でカフェイン濃度95パーセント、ニコチンとタールも配合した1本飲めばタバコ200本同時に吸った効果がある、究極の目覚ましドリンク、超絶悶絶カフェイン・スーパープラス・ハードコア・ニコチン配合を飲むことにします。これで5分間は起きていられると思います」
「やめた方がいいんじゃないか、サワダ課長、体に悪そうだし―――」
「いいんです、これまでも何度か飲んだことありますから」
そう言いながら、真っ黒いビンのドリンク剤を飲み干すサワダ課長。

「高速思考開始、解決法発見」
「どうしてサワダ課長に効いたんだろう、不思議だ」
「さっき飲んだ豆乳ドリンクにカフェイン・スーパープラスが相乗効果で効いたみたいです。豆乳だけだと足りなかったのが、その効果を強めた、薬業界の用語で併用効果と言う現象だと思います」

「能書きはいい、早くデスビスノスの倒し方を考えてくれ―――」
「巨大クリムゾンを使って、デスクリムゾンをクリアするんです。ラスボスはデスビスノス。他人を苦しめて殺すことでその怨念がカルマとなりクリムゾンに蓄積したわけですが、自分自身を殺してしまった時大きな自己矛盾が発生し、その怨念は負のカルマとなり、それを吸収した巨大クリムゾンは内部から崩壊します。そしてデスビスノスも同時に消滅するはずです」
「要するに、あのバーチャガンでクリアすること自体が困難なデスクリムゾンを巨大クリムゾンでクリアする必要があるわけだな―――一体そんなことが可能なんだろうか。なんかいい方法は無いのか、サワダ課長」
だが、返事は無い。
「カフェイン・スーパープラスが切れたらしい。深い眠りについている。サワダ課長、よくがんばってくれた、あとは俺に任せろ」そう言いながらタクシーを呼んでサワダ課長を病院まで届けるように運転手に頼む。

マナベは朝まで考えた、そして、自分がなすべき道を見つけた。

「傭兵を集めよう。デスビスノスと戦う、7人の凄腕のゲームプレイヤーを集めよう。そうすれば、必ずデスビスノスを倒せるはずだ」

早速、マナベは垂れ幕を作成して24階の窓からおろした。
「凄腕の傭兵募集、敵はデスビスノス、定員7名」
そこまでの作業を終えて、マナベは深い眠りについた。


□1996年 1月6日 10時00分 エコール社内

「社長、起きて下さい。傭兵の人が来られました」
矢野主任の声で目覚めるマナベ。

「昨晩、社長が傭兵募集を行ったでしょう。覚えてますか」
「ああ、なんとかなぁ」
「集まった傭兵を紹介します。まずは私、矢野が傭兵1号、そしてクルムシが傭兵2号」
「なんだ、要するに社員が仕事として参加すると言う話だな」
「伝説のゲームプレイヤー、デスクリムゾンをノーミスでワンコインクリア、一度もダメージを受けずにバーチャガンでクリア出来る、ゴンベッサ君、彼が傭兵3号です」
「おお、ゴンベッサ君、君が参加してくれると心強い」

「それから、赤の宮殿で働いていた元メイドのキタムラさん」
「あの時はどうも、声優事務所には無事に戻れたんだね」
「はい、助け出していただいてありがとうございました」
「だが、君はゲームは出来るんだっけ、人選ミスじゃないのか矢野主任」
「キタムラさんは、赤の宮殿を訪れる人たちにデモプレイを見せていました。だからゲームの隅々まで知り尽くしています」
「それは心強い限りだ。だが、せいじろうはどうした。本当の傭兵なんだし、もともと越前康介なんだから、アレが真っ先に傭兵として参加するべきだろう」
「せいじろうさんから連絡があって、この前の収録で腰を痛めたそうで、参加したいのは山々だが今回は辞退させて下さいとのことです」
「なんだ、肝心な時に役に立たない野郎だな」
「では、集まったのは俺を含めて5人か、2人足りないぞ」

「俺も参加してやるよ、何かの縁だ。残念ながらブラックバスは急用で来れないが」
そう言いながら現れたのは、ブルーギル。

「君も参加してくれるのか、ありがとう。昨日の敵は今日の友と言うことで、大変心強い。もしビジュアル面が戦いの分岐点になった時、君がいるのは心強い」
「それほどでもないですよ、ふっ」
そう言いながら髪の毛をかき上げる姿にオーラがさしている。横を見るとキタムラさんが夢見る目つきでブルーギルに見とれている。
「女性関係でもめなければいいが、でもこれで6人がそろったわけだ。一人足りないが、デスビスノスを倒すまで命を懸けて戦おう」

「マンセー」
「異議なし」
「それでいいよ」
「がんばりマース」
「空手は得意です」

では、出発、目指すは赤の宮殿、敵は巨大クリムゾンに入ったデスビスノス。


□1996年 1月6日 20時00分 箕面山中

「久しぶりにこの場所に来た。この前来た時は一人で寂しく越前康介と戦ったが今回は5人の仲間がいる。心強いが、クリムゾンのカルマも限界を超えて溜まっているはず、世界の未来のために、これ以上厄災を次の世代に残さないためにも、今日こそデスビスノスの息の根を止めよう。みんな、宜しく頼む」
だまって肯く傭兵たち。

「キタムラさん、巨大クリムゾンとゲームのセットは出来ましたか」
「大丈夫です、あれから特に変化はありません、あとはメインスイッチを入れれば起動します」

矢野主任がメインスイッチを入れる。エコールロゴ、オープニングムービーを一通り眺めて、そしてマナベが言う。

「チャンスは1回だけ、デフォルトのクレジットで最終ボス、デスビスノスを倒す。失敗すればその時点でクリムゾンのカルマにより、この辺りは亡霊たちの彷徨う地獄となり我々は二度と生きて帰ることは出来ないだろう。コンティニューはOKだが、許容されたクレジットで何がなんでもデスビスノスを倒す」

「最初のステージはクルムシが行ってくれ、出来るところまで引っ張ってくれ」
「がってんです」

―――サロニカの街
「ぐお、やりやがったなぁ、オーノー」
「どうしたクルムシ、いきなり3ダメージを受けたみたいだが」
「やっぱり、この巨大クリムゾンは相当難易度が高いです。出現パターンはほぼ把握しているんですが、実際にその方向に照準を向けようとするとなかなか的確に動作出来ません」
「デスクリムゾンは、大体その方向に向けて撃てばいいんだよ。こまかい照準は考える必要無い。とにかく、勢いで押すんだ」アドバイスを送る傭兵1号の矢野主任。
「しかし、白い服で出現しているのに急にモンスターに変わるのは迷惑ですよね」
「急に変わっているわけではない、ちゃんと点滅しながら徐々に変わっているんだ」

「この街はどこをイメージして作ったステージなんですか」キタムラさんが聞く。
「これは、ロドス島、エーゲ海の最も東よりの島。イスラム建築と白い建物と赤茶けた砂の要塞が、デスクリムゾンの最初のステージにふさわしかったから選んだんだ」
「クルムシくんはだいぶ調子が出てきました。このまま最後までクリア出来たらいいですね」
「そう甘くは無いと思うが」
「ぐぉ、ぐぎゃ」
「おお、シーン1をクリアだ、よくやったクルムシ、引き続きシーン2も頼むよ」
「それが社長、この前の三四五六祭りの大会でかわら割りで頭を使ったのが響いていて、頭痛がガンガンします。目が霞んできましたし、これで限界です」
「ええ、それは計算が狂う。実際のところ矢野、クルムシ、ゴンベッサ、ブルーギルの4人しか戦力がいないに等しいんだから」
「どうしてですか、社長もキタムラさんもいるじゃないですか」
「キタムラさんは、細身だから、事実上イズキット川の攻略しか難しい。俺は、実はデスクリムゾンは不得意だ。コンピュータ自動プログラムでの調整ばかりやっていたから銃を持ってのプレイは話にならん」

「ええええええ、開発者がそんなんでいいんですか」
「いいんだよ、その代わり、チョコマーカーだったら俺にまかせろ」
「ぶーぶー、今はチョコマーカーは関係無いです」
「そう言うことで、少なくとも、4人で2シーン以上はクリアしてもらわないと困る。だから、クルムシは計算上2シーンまでやってもらおう」
「無理みたいです。クルムシはそこで倒れてます」

「社長、早くしないと次のシーンが始まってしまいます」キタムラさんが急き立てる。
「私がガイドしますね、プレイは不得意だけど、内容は何百回も見ましたから。ここは、そんなに難しくないから社長がプレイして下さい」
「解った、しょうがない、頑張ってみるか」


―――リムブルク大学
「バシ、バシ、バシ」
「リムブルク大学は、エジプトカイロのカイロ大学を参考に作ったはずだ、
あまりに暑かったから写真を夜に撮りに行ったせいで、夜のシーンになっているが」
「オーノー」
「社長、ダメです、ムササビを撃ったらダメージが入ります」
「ちょうど撃ちやすい位置にあるから、つい撃ってしまうな」
「リロード、リロード」
「社長、リロードして下さい」
「解った、と言いたいところだが、この巨大クリムゾンはXボタンが無いぞ、どうやってリロードするんだ」
「画面外を撃つんです、ガンシューの常識ですよ」
「こんな重い銃を操作して画面外を撃つのは無理だろう、腰を悪くする」
「このステージは簡単ですから頑張って下さい」

「ファイアー、ファイアー」越前のボイスが響き渡る。
「なんだぁ、あのファイトみたいな声は―――」
「あれは、銃が進化してボムショットが発射される音です」とキタムラさん。
「ボムショットは確か、あまり使えないような武器として設定しておいたはずだが」
「いや、ボムショットは結構使えます。とりあえず発射しておいてあとは普通に撃ちまくると適当に当たって便利です」

「社長、エコール噴水です。あれ絶対取って下さい」
「解った、あれは覚えてる。最初とったら2クレジットアップに設定していたんだが、その後のステージが厳しいから景気良く6クレジットアップにしろと言っておいたから」
「バシ、バシ、バシ、バシ―――ブオオオーン」
「やりました、エコール噴水を取ったから6クレジットアップです。これで役目は終わりみたいなものですね」
「なんとか、シーン2をクリアしたぞ」

―――コネラート橋
「矢野主任、行って下さいね。ここは結構難関ですから社長には無理です」
「アイアイサー」

「バンバンバン」
「音楽が軽やかになったな、なんだか清々しいステージだ」
「どこが清々しいんですか―――」全員がクレームをつける。
「ここは想像出来ないだろうが、ベネチアの風景なんだ。ベネチアは町の中の方は水路と櫓櫂船のイメージがあるが、周囲は意外に近代化されていてな。その海側の方のイメージでマップを作ったんだ」

「欄干の上にデスフラッシュの元が、矢野主任、あれは取るのか」
「最初1個はいいですけど途中からムササビが出てきますから、巻き添えを食ってオーノーになります。ただ、さっき社長がとった6クレジットでライフは十分にありますから、ここは一気に使います」
「デスフラッシュ、5連発」
「オーノー、オーノー、オーノー」
「だいぶ無駄にムササビを殺生したんじゃないのか」
「まあ、いいでしょう。元はモモンガなんですから」

「あの肉まんみたいなのは撃たなくていいのか」
「あれは攻撃して来ないから大丈夫です。逆に水色の攻撃して来なさそうなやつはいきなりダメージが来ますから撃たなければ―――」
「矢野主任、お疲れ、ついでにボスもクリアしておいてくれ」

「フライリハード、クリアしました」

「おめでとう、まずはステージ1をクリアしました」

メイドのキタムラさんが順調にイズキット川をクリア。
「イズキット川はあまりクリムゾンを振り回さなくていいので、大丈夫でした」キタムラさんがコメントを発す。

―――アッシムの館

「ついに来た、デスクリムゾン最大の難関、アッシムの館。これが事実上最高難易度でこれまで多くの挑戦者たちを跳ね返してきた最大の難敵」

「ここは、伝説のプレイヤーゴンベッサさんに頑張ってもらいましょう」
「残念ですが、先に言っておきます。アッシムの館は巨大クリムゾンでクリアするのは無理です。なぜなら、激しく画面の左右から出現する敵、それをすばやく撃つにはこの巨大クリムゾンは大き過ぎます」
「だが、ゴンベッサ以外に、ここをクリア出来る可能性は無い、頑張ってくれ」

「ラクダとサソリが邪魔ですね。あのサソリがラクダを自動的に攻撃するような設計にはしなかったんですか」
「一応、サイコキラーと言うオプション銃を考えた。地面を這っているサソリをサイコキラーで撃つと、ラクダを攻撃してくれるような仕組みだ。しかし、忙しさにかまけて実現せずしまいだ」
「残念です、その機能があれば、クリア出来たかも」
「大丈夫ですよ、デスクリムゾンの特長に続きからの機能があります。このアッシムの館では使わざるを得ないでしょう」矢野主任が発言する。
「かなり苦しい状況です、続きからの機能を使う準備をして置いて下さい」必死でプレイしながら叫ぶゴンベッサ。
「続きからって、セガサターンのふた開けるんじゃなかったっけ、でもこれふたが開かないように固定されているぜ」あくまでクールに発言するブルーギル。
「ぎえー、それはまずいです」悲鳴をあげるゴンベッサ。
「頑張れ、ゴンベッサ、君は世界一のクリムゾナー、きっと出来る」
「頑張ってー、なんとか戦ってくれ」
声援に必死で答えるゴンベッサ、そしてついにアッシムの館をクリア。
だが、サソリのボス戦が―――

キタムラさんがサイトスコープを見ながら方向を指示、それにあわせてゴンベッサがクリムゾンを操作、二人力を合わせて、ついにサソリを倒す。

「なんとか、ステージ2まではクリアした。あと残っている傭兵は誰だ」
「頭痛でプレイ出来ないのは、クルムシ君、社長はヘタだから論外、ゴンベッサは1ステージ休養をあげれば復活すると思います。あとブルーギル選手が無傷、矢野主任もなんとか戦えます」
「状況は極めて良いな、あと3シーン、なんとかなるだろう」

「次のステージが始まってしまいました」

―――サファール遺跡

「矢野主任、もう一度頑張ってくれ」
「オス」
「さすがに、ガテン系の仕事をしていただけあるな。こう言う時に体力が余っていて頼もしい」
「日雇いのアルバイトですからそんなに体力は必要ありませんよ」
「ここは、アンコールワットのイメージで作ったステージ、石の建造物に加えて、樹木の配置に工夫をした。結構お気に入りのステージだ」
「このさい、攻略に関係の無いステージ説明はやめて下さいね」キタムラさんがクレームを言う。
「なかなか順調ですね。もうすぐクリアです」

「ここまでは、極めて順調だ。あとは復活したゴンベッサと温存しておいたブルーギルがいるし、なんとかなるだろう」

―――シャナファーラ

「ゴンベッサさん、宜しくお願いします」
「頑張ります、ゲームが始まりますよ」

「ピキーーーン」
突然、辺りの空気が硬直する。画面を見ると―――
「まずい、ここはスナブリンが登場するシーン。スナブリンは傭兵のカルマを溜め込みデスビスノスに届ける存在のはず。のこのこ傭兵たちが集まっているこの状況は極めてまずい」
辺りを見渡すと、ゴンベッサが泡を吹いて倒れ、キタムラさんも目を白黒させながらクチをパクパクしている。矢野主任は、床にうずくまり嘔吐を繰り返している。

「いかん、傭兵が全滅している、戦えるのは俺とブルーギルだけか」
「俺が行きましょう、プレジデントマナベ」
「スナブリンを真正面から見ないようにな」
スナブリンのビジュアル攻撃が厳しい。真正面から見ると、意識が遠のきそうになる。
しかし、しっかりと見据えないと倒すことは出来ない。

あくまでクールにステージを進めて行くブルーギル、だが、限界が近い。

「リロードが出来ねぇ、リロードをしているうちに照準が変わってスナブリンを見てしまう。なんとかリロードは出来ないのか、このままではもたねぇ」
「残念だが、ここまでかもしれん。ブルーギル、もういい、ここは撤退しよう」
「ここで、引くわけにはいけません、なんとか、打開策は無いのか―――」

突然、頭痛で倒れていたクルムシが起き上がり、クリムゾンの前に立ちはだかった。
「俺を撃て、そうすればリロード出来る」
ためらうブルーギル。
「まような、ブルーギル、ずっと脇役だったが、ここでいい格好させてくれ、かわら割りでは俺が勝ったがゲームでは絶対に勝てない。尊敬するブルーギルに撃たれるなら本望だ―――」

「ありがとう、クルムシ、忘れないぜ」
そういいながら、クルムシ目掛けてクリムゾンを発射するブルーギル。
「リロード成功だ、これで、最後のスナブリンを倒す」

「バン、キュオーン」
「バン、キュオーン」
「バン、キュオーン」
「バン、キュオーン」

そして、シャナファーラをクリア。ブルーギル選手も力を使い果たし、退場。

―――デスビスノスの宇宙船

「宇宙船を越えれば、あとはデスビスノスだけ、だが動けるのは、俺一人。結局最後はひとりぼっちだな」最後に残されたマナベが呟く。

その時、背後から人影が―――
「だれだ、おまえは―――」

「7番目の傭兵、遅れて来た最後の傭兵、コードネームはコンバット越前。好きな食べ物は焼きビーフン、女性の扱いは苦手」

「せいじろうじゃないか、来てくれたのか、腰は良くなったのか」
「腰は、カイロプラクティックに行ったら完治しました。やっぱりデスビスノスを倒すのは俺しかいないでしょう」

「よし、行くぞ越前、遅れるなよぉ」
「ああ、ダニー、準備は完璧だ、戦おうぜ」

ダニーと越前は、これまでの何度も戦場をくぐり抜けたチームワークで次々とデスビスノスの宇宙船を攻略して行く。そして―――

ついにデスビスノスと対峙する。

―――オマエはオレにジュウをムケルのか
「ああ、もうお前の呪縛からは逃れた」
「数千万年のカルマがクリムゾンには詰まっている。あとは越前、お前のカルマを加えれば、世界は終わりを迎える。お前には私は倒せない」

―――オレはオマエをコロスのではない、フリーズするのだ。
マナベが突然語り始める。
「デスビスノス、確かにお前を殺すことは不可能、お前は実体の無いプログラムコードの集積体、どこにも移動出来るし、複製を作り出すことも出来る、だが、今お前の本体は、このクリムゾンに閉じ込められている。お前を殺すのではない。フリーズ、プログラムにとって死よりも恐ろしい、フリーズ」

「やめろ、そんなことは出来るわけない―――」
「せいじろう、デスビスノスが退場する瞬間に1フレームだけフリーズするタイミングがある。俺が合図するから画面外を撃て―――」

「ヤメロー」
「ヤメロー」

「リロード」マナベが叫ぶ。

「止めろ―――――――――――――――――――――」
その声もむなしく、画面がフリーズする。
「再現パターンなし、二度と同じ場所でフリーズは出来ないだろう。これでデスビスノスは永遠にクリムゾンに閉じ込められ、そのカルマは自己矛盾により消え去る」

二人の目の前で、クリムゾンが急速にしぼんで行き、そして元の大きさの銃にもどった。

「終わりましたね、越前さん」

「終わりました、ダニーさん」

「みんなを運んで、グレッグのところに帰ろう―――」